関東地方の「花いちもんめ」の歌詞と遊び方は、次のとおりである。 子ども達が、それぞれ2組に分かれて、手をつないで並ぶ。 前回勝った組が、
「勝ってうれしい花いちもんめ」
と歌いながら、前に進む。 負けた相手の組は、後ずさりする。 今度は負けた組が、
「負けてくやしい花いちもんめ」
と歌いながら、前に進む。 そして交互に、 「隣のおばちゃんちょっとおいで」 「鬼がこわくていかれない」 「お釜かぶってちょっとおいで」 「お釜底抜けいかれない」 「座布団かぶってちょっとおいで」 「座布団ぼろぼろいかれない〜」
「あの子が欲しい」 「子のコじゃわからん」 「相談しましょ」 と歌が終わると、それぞれの組が相談して誰をもらうかを決める。 決まった組から、
「き〜まった」
と叫ぶ。 再び手をつないで、 「○○ちゃんが欲しい」
と一方の組が、相手の組の中のひとりを指す。 もう片方も、相手側に向かって、 「××ちゃんが欲しい」
と返す。 そこで双方の代表者同士がじゃんけんをして、勝った方にその子が入れられる。 それを繰り返して、全員とられた方が負けになって、終了。 この歌の発祥の地は、関東の北総。佐倉から印旛沼、手賀沼あたりの田園地帯といわれている。 「花いちもんめ」を漢字にすると「花一匁」。匁とは江戸時代から明治時代にかけて使われていた重さの単位で、一匁は約3・75g。当時は花を重さで量って売る慣習があった。花は女の子を例えている。つまり、「花一匁」は、花一輪ほどのちっぽけな女という意味。女とは女郎を指している。「勝ってうれしい」は、「買ってうれしい」を掛けた言葉である。
当時は、農家であっても米を食べることなど、ままならなかった。ただでさえ貧しい生活のなか、不作や飢饉にでも見舞われたら、生活苦は極限に達する。生きていくには、娘を売るしか手段がなかったのだ。「はないちもんめ」は、人買い同士が、遊郭に売られていく女の子の集団を値踏みしている様子を歌ったわらべうただったのだ。哀して泣かせる歌である。
昔からみんなに親しまれてきた歌だけに、全国津々浦々にそれぞれの「花いちもんめ」が存在する。 二組が交互に言い合う場面には、こんなバージョンがある。
「隣のおばちゃんちょっときておくれ 犬がこわくていかれない」(北海道)
「鉄砲かついでちょっときておくれ 鉄砲ないからいかれない」(宮城県)
「雑巾かぶってちょっとおいで 雑巾ぼろぼろこられませんよ」(富山県)
「座布団かぶってちょっとおいで 座布団びりびりよういかん」(名古屋)
「お茶碗かぶってでておいで お茶碗割れてていけません」(静岡県)
「お面かぶってちょっとおいで それでもこわくてこられません」(熊本県)
「花びらふわふわ飛んでけその子 花びらふわふわ飛ばないこの子」(大分県)
方言(名古屋)で歌ったり、名産品がらみ(静岡県)だったり、歌い継がれるうち自然発生的に、いろいろな歌詞に変わっていったのは興味深い。
他の一節でも、「相談しましょそうしましょ あっかんべーのべーろべろ あっちいけしっし」(北九州)、「あっかんべーの屁のかっぱ」(福岡)のように、九州では、「相談しましょう」の後に、「あっかんべー」や「お尻ぺんぺん」の動作が入るのが定番だとか。
関西では「箪笥長持ちどの子がほしい どの子じゃわからん」(大阪)と、箪笥と長持が登場する。2つは、娘が嫁ぐ時の嫁入り道具。売られていく女の子を嫁入り道具の価値と重ねている。
「相談しましょそうしましょ あっかんべーのこんぺいとう おしりぺんぺんはなまるき」(静岡県)、「相談しよう ソーセージ」(高知県)などは、後々にできた歌詞であろう。「花いちもんめ」は、さらに「進化」してどこかで、時代に繁栄した新たなバージョンが生まれているのかもしれない。 永島慎二と谷川史子の漫画作品、はっぴいえんどと長渕剛のシングル曲、伊藤俊也監督の映画、宮本研の戯曲など、「花いちもんめ」を題名にした作品は数多い。儚い女を表現した、日本人の琴線に触れる見事な名コピーである。
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